[Novels]

【春色は、青だと四月の風は言う - 第3話 】
祐希の日記01
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 5月23日(月)
 進路調査表に至って真面目に書いたら職員室に呼び出された。
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 高校に入学して1ヶ月が経過したわけだが。はっきり言ってゴールデンウィークのせいで感覚がおかしい。入学早々この休みって、人のやる気を削ぐためにあるに違いない。
 そもそも入学前は散々周囲から「中学と高校では全然違うんだから」みたいなことを言われていたのに、実際にはやってることなんてほとんど変わらないじゃねぇか。
 確かに、授業のペースはいきなり速いし、何かにつけて受験受験って言われてウザイけど、それ以外はさして変わらない。
 ……まあそれだけで十分だっつー話もあるかもだが。しかしそんなものは変化のうちに入らないっつーか何つーか。俺としては色々と不満。
 その上、先週末が提出期限だった進路希望調査。
 担任が「まだ希望でいいぞ。大まかに、進学か就職か、進学するなら文系か理系か、とか」って言いやがるから、すっごく真面目に希望を書いて提出したってのに。
 週明け早々、職員室に呼び出しを食らった。
「……お前な、坂下。何というか、もう少し人生真面目に考えろ?」
 ものすごく渋い顔をして、周りに比べたらまだ若いだろうと思われる担任に、意外にもそう言われた。
「俺、サイコーに真面目っすけど?」
 甚だ不本意だったので、不満さをめいっぱいイントネーションで表現してみたわけだが。
「俺の前で、声出して読んで見ろ」
 眉間を指先で押さえながら(いちいち行動が芝居臭いんだっつーの、この男はよぉ)、俺が提出した進路調査票を差し出された。
 読めと言うなら読むともさ。受け取って、自信満々に読み上げる。
「“早稲田大学文学部に入学後、2年生くらいでマギー審司に弟子入りしてマジシャンになる”……で、これが、何か?」
「……真面目か?」
「至って。本当はトランプマンが良かったんですけど、最近あんまり見かけないし。エンターテインメントっつー面からいったらやっぱ、あのレトロな感じがマギー審司かなと」
 調査票を返しながら答えると、担任はそれはそれは深いため息をついた。
「坂下、お前な。頼むから、真面目かいい加減か、どっちかに統一してくれ」
 力無い感じでそんなことを言う。
「俺はまだ、担任持って5年目なんだよ。確かに色々不慣れな面もあるかもしれない……」
 切々と訴えるような担任の話(これって愚痴なじゃねーのか、おい)は、とうとう入学式の事件にまで及んだ。
 まあ、言いたいことも判らないでもない。気が気じゃなかったぞという意見もまあ当然だろうとは思う。何てったって、五十音氏名順に座ることになっていた入学式の座席が、4人分、ぽっかりと空いていたのだ。担任としては当然、嫌味のひとつも言いたくなるだろうし、実際学年主任などからは、小言のひとつやふたつ、言われたことだろう。
 だからってそれを俺に言われても困るのだ。
 俺らの名前がたまたま、小島・沢木・坂下・篠田と並んでいたのは、俺の責任じゃない。
 俺と沢木は確かに中学からの友人だが、はっきり言ってそもそもの原因は篠田だし、小島に至っては、別件での遅刻だ。それを今更とやかく言われても……。
「だいたい篠田も……」
 長ったらしい愚痴の途中、そう言いかけたところで担任の言葉が途切れた。
 篠田も?
「いや、それはいい」
 自分で言っておいて、不自然にそう言葉を切る。
 篠田。俺にジャムをつけやがった女だ。おかげで入学早々遅刻する羽目になった。
 しかし、何の因果か(いや、何のも何も「遅刻4人組」というレッテルのせいだが)、あれ以来4人で一緒に居ることが多い。しかも沢木はどうやらすっかり篠田のペースに巻き込まれているらしく、端から見ていて哀れなくらい篠田の言いなりだ。一見大人しそうな女ではあるが。……ジャムだしな。よくはわからないが、あーいうタイプはキレると怖いに違いない。根拠はないが、そう思う。こういう時のカンは良く当たるのだ。俺としては極力関わり合いにはなりたくないところな訳だが。
 結果として4人で連む事になっている以上、それも難しいんだろうな。
 俺は、辿り着いた結論にうんざりしてしまった。
 担任の小言はまだ続いている。若いくせにネチネチとくどい。気の毒に。普段からストレスが溜まっているに違いない。
 だからといって、俺に当たられても困るのだ。
 全くもって、融通が利かないと言うか、頭が固いというか、大人は妙なところに拘りたがる。
 俺は思わず漏れたため息とともに担任の机から進路調査票をひったくって、隣の机に置いてあった消しゴムで、マギー審司に弟子入りにのくだりをわざとたくさんカスを出しながら消してやった。
「……坂下」
 もの言いたげに呟く担任に。
「ひとまず、第三者的に見て真面目っぽければいいんすよね? まあ、言うまでもなく俺はもともと真面目なんですけど」
 進路調査票を突きつけ、真面目を一際強調してから職員室を後にした。
 俺は何時だって真剣に生きてるんだっつーの。
 いいじゃねーかよ、マギー審司。


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