[Novels]

【春色は、青だと四月の風は言う - 第4話 】
梨佳の日記01
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 6月6日(月)
 中学時代の悪事がバレたらもう明日登校する勇気がありません。
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 学校生活には結構慣れました。
 私は他の人とはどうも少し感覚がずれているようで、相変わらず突拍子もないことを言って小島さんをびっくりさせてしまっているみたいですが、小島さんはいい人、というか、少し変わった人みたいで、こんな私にも仲良くしてくれています。
 沢木くんも面倒見のよい人で、私が困っているといつも助けてくれます。
 入学式のあの日、ぶつかった相手が沢木くんで本当に良かった。
 でも、沢木くんの友だちの坂下くんは少し苦手です。金色の髪はきれいだと思うけど、いつも何かつっかかってきます。苺ジャムがそんなに嫌いだったのかしら。
 それに、今日は坂下くんに「お前中学ん時、どんな問題起こしたんだよ?」って聞かれました。「別に何も問題なんて起こしてない」って答えたけど。きちんと、嘘だってばれないように答えられたかどうか、自信がありません。
 どうしたらいいのでしょうか。どんな問題を起こしたのかと聞かれたのだから、まだ内容については知らないのだと思います。ただ、どこかで噂を聞いたのでしょう。内容まで知ったら、今以上につっかかってこられるのでしょうか。それとも……。
 言い訳するわけじゃないけど。あれは、ほんの出来心だったのです。
 今日みたいに、朝は晴れていたのに昼前から急に雨が降り出すような、そんな日でした。
 天気予報で雨が降ると言っていたからと祖母に渡された、祖父に買って貰ったばかりのお気に入りの傘を持って登校して、午前中の授業を受けている途中で気分が悪くなって、保健室に行ったら熱があって、早退することになって。
 その頃には雨が降っていたので、持ってきた傘をさして帰ろうと、昇降口の傘立てをのぞいたら、私の傘がなかったのです。
 買って貰ったばかりの、お気に入りの傘なのに。誰かが勝手に持っていってしまったのだと思います。すごくすごくショックで。
 でも、誰が持っていったのかなんて判らないし。
 でも、すごく悔しくて。
 静まりかえった、時折、どこかの教室で授業をしている先生の声だけが響いてくるような静かな昇降口で、私は、傘立てに入っている傘を、一本一本取り出しては、足で骨の真ん中を折って、また傘立てに戻して。ということを繰り返したのです。
 なんであんなことしたんだろう。今でもよく分かりません。
 ただ、すごく悔しくて、悲しかったことだけは覚えてます。
 誰にも見られなかったし。後で先生に呼び出されたりすることもなかったから、私が折ったんだとは、疑われてはいても決定づけられてはいないと思うんだけど。
 でも、みんなの傘を全部折ったなんてバレたら、優しい小島さんも、私のこと嫌いになるかな。どうしよう。そればかりが気がかりです。
 坂下くんは、苦手だけど、でも悪い人ではないと思うから。
 あの人が、これ以上深く追及してこないといいな。
 その為なら、しばらくトーストにはジャム無しのバターだけでもがまんします。

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