[Novels]

【春色は、青だと四月の風は言う - 第5話-02 】
祐希の日記02-02
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 7月6日(水)
 盗まれたスクール水着を捜し出せたら、そいつが犯人ってことにしておこう。
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 日に日に小島が暗くなっていくので、それに伴って俺は日に日に八方ふさがっていく訳である。
 どーすりゃいいんだ。今更見つけたとは、言えるはずもない。
 教室にいても、ついついため息が出てしまう日々だ。あーもー。
 授業中から休み時間に至るまで、心休まる時がない!
 どうしようどうしようどうしようどうすれば!?
 思い悩んでいる俺の横で、クラスの女子が何やら騒ぎ出した。
 気が散るから騒ぐのはよそでやってくれ。と、正直思ったりもしたが、その表情が想像以上に深刻そうだったので、ちょっと気になって耳を傾けてみた。
「確かに持ってきたのに……」
「うん。だって朝持ってたよね、私見たもん」
 ロッカーを漁ったりしているところをみると、何かが無くなったようだ。
 なんだろうかと思っていると、いつも大抵無表情で、何考えてんのかその言動からもさっぱり読めない篠田が、小島とともに僅かに眉をひそめて立っていた。
「どした?」
 小島だけでなく、なんで篠田までテンション下がってんだ。
「水着が無いわ」
「あ?」
「また盗まれたわ」
 確かにさっきの時間の数学は移動教室で、この教室には誰もいなかった。盗まれていたとしても不思議はない。が。
「また?」
 またってなんだ。初めてじゃないのか?
「結構頻繁に無くなるのよ」
 ……そんなことを無表情で言われてもなぁ。
「落としてきたとか、家に忘れてきたとかじゃねーの?」
「スカーフを? 使いかけのノートを?」
「……盗られてんのか」
「だと思うわ」
 それって結構一大事なんじゃねーの?
 先ほど横で騒いでいた女子にきいてみると、買ったばかりの色つきリップが無くなったのだという。その前はバレッタとかいうものが無くなったらしい。響きが武器っぽいけど、さすがに武器は持ってきてないだろうから、俺の知らない何かだろうと思う。
 さらにその前には、お気に入りのシャーペンも無くなっているのだとか。はじめはどこかでなくしたのかと思っていたが、こう頻繁だと盗られているとしか思えないのだという。
「篠田も?」
「そうね。スカーフに、ノートに、今回は水着。小島さんは、体操服と……」
「体操服!? 言えよ、そういうことは」
「……だって、勘違いかもしれないし」
 小島の言葉に、「ねー?」と、クラスの女子が賛同する。
「だいたい、盗る理由がわかんないし」
「変質者とか?」
「やだ、きもーい!」
 耳に響く高い声がはもる。……正直、うるさい。
「でもそれだけ多種多様に渡って被害があるってことは、変質者というよりは、あれかも」
 いつのまにか隣に立っていた沢木が、何か考えるように呟いた。
「あれ?」
「ネットオークション」
 なるほど。じょしこーせーぐっずか。可能性としては確かにありそうだ。
 話を聞いてみると、今日はうちのクラスで水着が2着消えているらしい。体操服や水着が消えるようになったのは最近のことらしいから、小物で味をしめた犯人が、大物に手を出し始めたと考えるのが、確かに妥当かも知れない。
 ……ふん。盗めそうな人間で、妖しい人間、か。
 俺の脳裏に、とある人物の顔が過ぎった。
 ついでに妙案も過ぎった。
「どこ行くの?」
 教室の出口に向かう俺に、沢木が驚いて声をかける。
「犯人探してくる」
「心当たりでもあるの?」
「ある」
 あの、小島にぶつかった挙動不審の3年生だ。
 3年生なら、既に受験カリキュラムで動いているから、講座の取り方によっては授業中の犯行が可能なはずである。……それにあの紙袋も妖しい。
「……授業は?」
「さぼる」
「随分とやる気満々だね?」
「渡りに舟だからな」
「は?」
「気にするな」
 顔を疑問符で覆っている沢木に、とにかく先生には適当に言い訳よろしくと言い置いて、俺は一路、社会科準備室を目指した。
 そうだ。渡りに舟なのだ。
 小島の手帳も、盗まれたことにするのだ。
 俺は決意する。
 盗まれたスクール水着を捜し出せたら、そいつが犯人ってことにしておこう。
 濡れ衣だと言うかも知れないが、そんなことは、俺の知ったことではない!!
 階段を駆け下り、チャイムを無視して図書室の方へ走る。と、なんとタイミングの良いことか、例の挙動不審男が、紙袋をかかえて、やっぱり挙動不審な様子で社会科研究室に入っていく所だった。
 息を潜め、足音を抑え、影が磨りガラスに映らないようにかがんで、扉から中をうかがう。
 中には一見真面目そうな生徒が4人。そのうちの一人が、挙動不審男である。
 一人の生徒が挙動不審から紙袋をひったくるように受け取って、中身を広げる。
 大当たりだ。水着が数着と、小物が色々出てきた。
 両サイドで見守っていた残りの二人が、途端に目の色を変えて、「篠田のを俺に!」「おれはこっちを、二千円で!」などと騒ぎ出す。
 ……コレが同じ学校の先輩だと思うと、ちょっと頭が痛くなる。
 が、しかし。コレこそまさに、渡りに舟、渡りに舟!!
「これはダメだ。ネットに流す。その方が、あがりが良いだろ?」
 リーダーらしき男が言い切って、ノートパソコンに指を走らせる。
 渡りに舟、渡りに舟。っつーかこれはもう、紛れもない現行犯だろう!
 思わず漏れる笑いとともに、豪快に扉を開けて教室へと飛び込んだ。
 言っとくけど、俺は、見た目通り、ケンカは強いぜ?
 蹴散らせ、殴り飛ばせ、半殺せ!
 一撃で鳩尾につま先蹴りと、軽くステップで切り返して金的とで、雑魚二人を撃沈させたら、テンションが高くなってきた。
 逃げ出す挙動不審は無視して、リーダー格の男に飛びかかる。
 最近の頭脳派ってのは、ほんと、筋肉をないがしろにしすぎだぜ。
 軽く引き倒して、うつぶせに転がし、腕を背中までひねってその上から踏みつける。
「肩の骨、鳴らしてやろーか? ボキって言うぜ。ボキボキって」
 泣いて許しを請う様を見下ろして、力入れちゃおっかなーと、ちょっと凶暴な気持ちになったところで、タイミング良く携帯が鳴った。
 沢木だった。言い訳ではなく、盗難の被害届を先生にしたのだそうだ。で、今どこにいるんだ、という内容だった。
 素直に場所を告げて、ぐったりしている3年生たちをさらに締め上げて、そうこうしているうちに、教師やってきた。
 教師に連れていかれる3年生達を見送りながら教室へ向かうと、沢木達が心配そうな顔で俺を出迎えた。
「犯人、殺してない?」
 そんなへまはしない。
 冗談っぽくたずねる沢木に笑って答えながら、思い出して小島に声をかける。
 そうそう。渡りに舟渡りに舟。
「これ、お前の? さっきの教室に落ちてたけど」
 とかなんとか、それっぽいことを言いながら小島に手渡すと。
「それ、すごくすごく探してたの! ――ありがとう!!」
 ものっすごく感謝された。
 ……ものっすごく、良心が痛んだ。
 でも、まあ、いいんだ。中は見てないし、悪いことはしてないはずだ。
 これで、小島も元気になるだろう。
 ほんと、手帳ってやっかいなものだよな。
 俺は、多分、一生手帳なんて付けようと思わないだろう。
 小島の安心した横顔を見下ろしながら、強く強くそう思った。


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