[Novels]

【水饅頭と月にうたう】 其の七
七、水饅頭と月にうたう

 夜の闇に、白いスカーフが緩やかになびく。
 闇よりも深い漆黒の長い髪が、幽かな月明かりを受けて浮かび上がる。
 祈るように一度、ゆっくりと目を閉じて。再び華南は目を開く。艶やかに光る紅い唇に無表情を讃えて。月の光に鋭く浮かび上がる紫紺の神針を、ゆっくりと男の首筋に突き刺した。
 ――生きている意味なんて、結局は、わからないんだろう?
 それでも、命は存在するし、死は確実にそこにあるのだ。
 絡まる神は、何を思って人と絡まるのだろうか。――神は人間を哀れんでくれているのだと思うの。と、早苗は言った。
 神は、絡まる神は、人を救おうとしているのかもしれない。迷う心に引き寄せられて、絡まってしまうそれは、神の嘆きなのかも知れない。そこに、光が無いだけで。
 だから華南は神を剥がし、夜風は天へと神を送る。
 ――生きている意味なんて、わからない。
 そんなものは無いのだろうし、そのことを思い悩むのは時間の無駄だ。
 正晴は、今でもまだそう思う。
 けれども、水饅頭と過ごした日々は、とてもとても、透明で優しくて。
 その時間までもが無意味だと、正晴に言い切ることはできなかった。
 ――生きていることに意味があるのだとしても。それは結果論なんだろう?
 それでも人は、愛しいものの死を悼み、生を喜ぶのだ。

 今宵の月は、金色に輝く満月。
 式服であるセーラー服の胸ポケットには、淡い淡い藤色の、水饅頭の種が入っている。
 ゆらゆらと揺らぐ、剥がれた神の影を見つめて。
 囁くように、祈るように、願うように響く早苗の歌を聴きながら。
 登っていく光と、眩しいほどに輝く月を見上げて。
 目を閉じれば浮かんでくる、艶やかな水饅頭とともに。
 その金色の月に向かって、正晴は、高らかに謳う。
 深く強い願いを込めて。
 ――いつかまた、この世に生まれてくるように。

... ... ... END.

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