[Novels]

【十三夜月の空にうたう】 - 水饅頭と月にうたう 番外編

 雨に濡れた天蓋は、月明かりを雫にのせてゆっくりと細い帯を描き出している。
 数日前から降り続いていた雨は、十三夜の月が空に姿をみせると、まるでカーテンを開くかのようにうす曇の空を開け放っていった。
 穏やかな月光に浮かび上がる、みずみずしい蓮葉を持つ木立。
 丸みを帯びたそのシルエットは寄り添うように、水晶の天蓋を持つ温室の中央にたたずんでいる。
 風も無くゆらゆらと揺れる枝の先には、大きな蕾を思わせる無数の淡い半球体が月光浴をしている。薄い花弁に包み込まれて、乳青色の“中身”は時折、くるりと光の中で反転する。
 耳を澄ませば、その蕾たちのかすかな歌声が君の耳にも届くだろう。
 るるる。きゅきゅきゅ。
 きゅ、るるる。
 月明かり眩しく降り注ぐ中で、その声は次第に大きくなっていく。
 きらり、くるりと、つぼみの中で淡い影が躍る。
 そう。夜の露天商で彼らに会ったことのある君ならば、きっとすぐに思いつくだろう。
 十三夜の月が照らすこの温室で、今宵、水饅頭たちが生まれる。
 彼らの歌声を聞きながら、温室の主は静かに天蓋から空を眺めた。
 月が、天蓋の中央へと進む。
 やわらかなショールを纏った温室の主は、ゆっくりとその月に手をかざす。
 彼女の指の隙間から、月の光がサラサラと零れ落ち、蓮葉の木々に降り注ぐ。
 さあ、いよいよだ。君も耳を澄ますといい。
 ほら、今、かすかな歌声の響く温室に。
 水饅頭たちの生まれる音が、小さくこだまする――。


... ... ... END.

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