[Novels]

【俺に世界を救わせろ!】 vo.1

一、
 日々、平穏。
 正直俺も、それが一番だろうとは思う。
 「大雨洪水警報が出て学校が休み」という事態にはちょっと憧れるけれど、だからって本当に洪水になって家が流されたりしては困るわけだ。
 雨が降っても、槍は降らない。
 そういう、一般的かつ日常的で普遍的な、穏やかな毎日こそが、平和でよろしいと言えるだろう。
 たとえ海を渡った向こうの国でテロや戦争によって死人が出ていても。たとえ川を渡った向こうの町で、同い年の男子が親を殺していたとしても。
 俺の周囲には今のところそれらによって及ぼされていると思わしき影響は見つけられないし、いくら世の中が物騒になってきたといっても、自分が事件に巻き込まれる可能性なんてまだまだ低いと思われる。実際、今のところ俺の人生は平穏に流れてきているし、最近経験した平穏とは言いがたい出来事といえば、一学期末考査くらいのものである。実に望ましい人生と言えるだろう。
 だがしかし。
 日々平穏。是《これ》、平平凡凡《へいへいぼんぼん》。
 困ったことに平穏と退屈は紙一重だったりするのだ。平和なのは結構なことだが、人生に張りが無いというのは正直ちょっと、いただけない。
 教室の隅では、局地的に流行っているらしく、女子どもが楽しそうに折り紙なんぞを折っている。鶴。箱。風船。コップ。チューリップ。そして兜。
 ちまちまとささやかな、ある意味ほほえましくもある光景に、俺の口から思わずウウウという唸り声が漏れる。
「何かないのか。こう、俺はこれのために生きていると思えるような何か出来事は!」
 女子から視線をはずし、返ってきたばかりのテストを憎々しげに眺めながらそう天井に向かって嘆いてみれば、
「夏休み明けの学内模試で一番でも取れば? 一躍有名人、時の人だぜ」
 隣の席で自分と同じく返ってきたテストを眺めている友人にそう提案された。口元に浮かぶ満足げな笑みが憎らしい。我知らず舌打ちが漏れる。
「規模が小さいんだよ、規模が。その程度の出来事なんて存在しないに等しい。いやむしろ、そんなちっぽけな出来事ならば無いほうがマシだ!」
「……ものは言いようだね」
(よく分かってるじゃねぇか)
 見るも無惨な点数を記したテストをくしゃりと無造作にポケットにつっこむ。
 せせこましい努力なんてしたくない。
 やりたいことだけを好きなようにやった上で成功したいのだ。
 好きこそものの上手なれっていうだろう? 危機一髪を一発逆転心機一転な感じで、どどーんとでっかいことをしたいわけだよ、俺としては。それこそ世界規模で。百歩譲ってもせめて日本規模で。
 だから校内模試レベルでどうこうなんて小さいすぎて話にならないのだ。
 ……断じて負け惜しみじゃないぞ。そもそもやる気がないわけだから。

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