[Novels]

【尖塔より愛を込めて - 03 】
 やけに長く感じた道のりの末、生徒会室にたどり着くなり吉村は思った。
 で。結局のところ、何がどう、でかい顔だったのだろうか。と。
 いや、もちろん、三谷の言いたいこともわからないでは無いのだが。もともと生徒会執行部と〈ストレイシープ〉は昔からそういうバランス関係でなりたってきていると吉村は思っていたし、実際、今までだって生徒会側にも〈ストレイシープ〉側にも、対立感情のようなものは生まれていなかった。
 表の生徒会。裏の〈ストレイシープ〉。生徒会という立場にいるからこそ、こうして〈ストレイシープ〉裏番などとも交流が発生しているが、もともとあの組織とて、露出は非常に少ないのだ。生徒によっては、学園七不思議のひとつ程度にしか思っていないものもいる。そんな彼らの行動だ。ありがたいものでありこそすれ、目障りであることなどありえないと言っても良い。
「水城」
 円卓に腰掛け、しばらく外を眺めながら思考を巡らせていた吉村は、隣で弁当を広げている生徒会会計に声をかけた。
「何?」
「三谷は、〈ストレイシープ〉の現総領に会ったことはないんだったか?」
 問われた水城は、記憶をたぐるように2,3回瞬きをして、
「幹部交代式には生徒会として参加してるとは思うけど。そうね。会って話とか、そういうのは無かったと思うわ」
 肩の辺りでゆるく絡まっていた髪を、ゆっくりと後ろに流しながら答えた。腰に届くほどの艶やかなストレートヘアが、窓からの光で濡れたように輝いている。
「そうか。交流不足というのはあるかもしれないな」
「あとは、現総領の統率力不足ね」
 さらりと付け足す水城を、吉村が意外そうに見返す。
「交代式の時は、かなりしっかりしている印象を受けたんだが。側近の反発でも買っているのか?」
「逆よ。側近も表番も、過保護すぎるくらい。それが逆に、彼女を萎縮させちゃってるっていうか。自信を無くしているっていうか。……分不相応だと感じているみたい」
「今回の表番は、また、キワモノ揃いだって噂だからな。確かに並の感覚では厳しいか」
 言いながら眼鏡を外し、胸ポケットから取り出したクロスでレンズを磨いている。
 マメな男だ。と、水城は思う。綺麗に磨き上げられた眼鏡。くもり一つない。どこまでも透明なレンズはきっと、はっきりとした世界のビジョンを彼の脳に伝えるのだろう。先ほどの階段でもそうだが。汗一つかかず、常に冷静沈着で、落ち着いた物言いをする男。完璧なポーカーフェイスというわけでも無いが、この整った表情が大きく崩れるところはおろか、集会以外で大きな声を上げているところなど、見たことがない。
 せっかく近くにいるのだ。一度くらいは、この男がおかしくなっているところを見てみたい。最近の水城は、ことあるごとにそう思う。
「ねぇ。馬鹿騒ぎしたこととか、羽目を外した事って、ある?」
「何を唐突に」
「そういうところ、見たことないなぁと思って」
 伺うような、どこか真剣さの見え隠れする水城の眼差しを、かすかな笑みで受け流しながら。吉村は磨き上げた眼鏡をかけて小さく首を振ると、
「俺は、実は結構ものぐさでね」
 その辺の感情リミッターは、外してみたことがない。と、ごくごく当然のように言葉を続けた。
 外してみたことがない、と言われると。少々無理矢理にでも外させてみたくなるのが人情ではなかろうか。
 卒業まで、あと半年余り。生徒会の任期を言えば、あと1ヶ月もない。
 何か、効果的な方法はないかと考えをあれこれ巡らせながら。
「なんて言うか。想像通りの答えね」
 企みがばれないよう、当たり障りのない返答を返した。

つづく
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使用お題
‐ 「‐」
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