[Novels]

【尖塔より愛を込めて - 10】
[epilogue]

「ただいま帰りました」
 玄関から、弟の声がする。
 〈ストレイシープ〉2代目総領である吉村康子は、ポテトチップスを囓りながら、部屋の入り口を振り返った。
「すみません。こんな格好で」
 ボロボロの制服姿で入ってきた弟に、お帰りなさいのかわりに「おやまぁ」という言葉を漏らしながら。康子はまじまじと弟の顔を眺めた。
「何ですか?」
 真面目で丁寧な弟が、相変わらず良くできた笑顔でたずねる。
 雨に濡れたのだろうか。今は乾いているようだが、髪の毛に変な癖がついている。
「何か、楽しいことでもあった?」
 いつもとわずかに違う、妙に吹っ切れたような弟の表情に、そう首を傾げると、
「ああ、わかりますか?」
 楽しそうに笑って、弟は答えた。
「今日は、酔っぱらっていることを口実にセクハラしまくるダメ上司というのを、堪能してみました。満喫です」
 あくまでも穏やかな口調でそう言って。
「シャワー浴びてきます。雨に降られたので」
 弟は静かに部屋を出ていった。
「……」
 普段、そんなにストレス溜まってるのか。とか。
 いったい、誰にセクハラしてきたのさ。とか。
 色々と突っ込みたいところはあったが。
「ま、いいか。満喫したんなら」
 康子は気を取り直して、ポテトチップスを頬張った。
 
 私立西遠学園。
 そこは康子が通っている昔から、平和で楽しく、ちょっとおかしな生徒の城であった。

  ... ... ... END


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