[Novels]

【無題SS - 04】
 ひとつひとつの授業が、気の遠くなるほど長いものに感じられた。
 生徒手帳が戻ってこないことなど、どうでも良いことだった。
 ただ、海に行っていた理由を知りたい。
 彼もまた、私と同じような思いで海を目指したのだろうか。
 そのことだけが、頭の中を支配して落ち着かなかった。

 休み時間になる度に、教室の窓から廊下を見た。
 彼は現れない。
 もどかしい思いを胸に、放課後になった。

 心に重くのしかかってくる不安を抱きながら。
 習慣だけで当番の掃除をこなす。
 何もかもが上の空で、そして、無意味に思えた。

 何よりも無意味なのは、きっと、自分の存在かも知れない。

 そう思った時、クラスの女の子に呼ばれた。
 振り向くと、入り口に彼が立っている。
 箒を持ったまま出向いた私を見て、ふうん、と呟く。
「掃除当番か。じゃあ図書室にいるから」
「え?」
「しっかり掃除するように」
 ひらひらと手を振って去っていく姿を、何も言えずに見送った。

 自分でも驚くほど、掃除はあっという間に終わった。
 あまりの早さに呆然としているクラスの子の視線も、もはや気にならない。
 今、気になるのはひとつだけ。
 私が求め焦がれていた海。そこへ行っていたであろう、彼のことだけ。

 ざわめきを胸に、図書室へと向かう。
 いつもと同じ、なんら変化のない廊下。
 無意識のうちに、歩調は速くなっていく。

 少しだけ上がった息を整えて。
 わずかに汗ばんだ手で、図書室の扉を開いた。

 心臓が、高鳴る。
 傾きかけた夕日を背にして、本を読んでいる彼を見つけて。
 その姿に、憧れてやまない海を感じた。
 穏やかに、美しく広がる、非日常の海を。

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