[Novels]

【月夜】
 どこまでも、ひとり。
 光あるからこそ、ひとり。

 群青天鵞絨(ぐんじょうビロード)の空に、白く冷たい光の雫が一つ、浮かんでいる。
 雲一つない空。深い深いブルー。地平線に切り取られた、パノラマ。
 広がるは、一面の砂浜。風が、砂地に緩やかな波模様を描き、月がその影を浮かび上がらせている。青白い、どこまでも続く、なだらかな砂丘。
 月の光をうけて、自分の影が一つ、そのなめらかな砂の上に伸びている。
 ひとり。
 遙か遠くから、波の音だけが耳に届く。
 海は見えない。ただ音だけが、かすかに、その存在を伝えている。
 月明かりが、夜の闇に、白い砂浜を青白く照らし出す。
 空の群青と、砂浜の青。360度、見渡す限り、二層のブルー。
 影さえも、深い青色に見えるようだ。
 風に乗って、浜辺を震わす潮騒は、心の中の、忘れ去ったはずの何かを呼び覚ます。
 ひとり。
 見上げた空に、その輝きも一つ。
 月は孤独に、空と、砂浜と、自分を照らしている。
 月もひとり。
 ただ、太陽の光をうけて、白く白く、輝いている。

 空に月。地上に、自分。
 ともに、ただひとり。
 夜が明ければ、空も地上も、まぶしい光に満たされることだろう。
 自分もまた、夜明けとともに、音と光の溢れる街へ、溶けて消えていく。
 朝の白みに溶けていく、あの月のように。

 ゆっくりと足を進める。
 足跡が、砂の上に影の軌跡を残す。
 月の光は、太陽の光。
 沈むブルーは、昼間色のネガ。

 波の音に重なる、小さな足音を聞きながら。
 僕はひとり、ひとりきりの夜を後にする。

.. ... ... ...END.


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